竹田晃子

竹田晃子

TAKEDA Kōko

所属科
国語教育科
職名
准教授
専門分野
日本語学 / 文法、方言学、社会言語学
Japanese linguistics / Grammar, Dialectology, Sociolinguistics

プロフィール

  • 東北大学大学院文学研究科博士課程前期2年の課程 修了(1996年)
  • 東北大学大学院文学研究科博士課程後期3年の課程 単位取得満期退学(2001年)
  • 博士(文学)(2012年)
  • 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所・特任助教(2012-2015年)
  • 立命館大学衣笠総合研究機構・専門研究員(2017-2020年)

専門分野や研究について

専門は日本語学で、方言学、社会言語学と呼ばれる分野が中心です。主に、語彙/文法/コミュニケーションにおける地域差・世代差・場面差などを研究しています。日本語にはたくさんの変異(バリエーション)があって、それらの違いや変遷を扱っています。
たとえば地域差です。東北地方では、「雨が降っているハンデ、傘を持って行きなさい。」「雨が降っているサケ、傘を持って行きなさい。」のように言う場合があります。ハンデは、古典にみられる語形ホドニが変化したもの、サケは最近まで近畿地方で使われていたサカイニ類が伝わってきて変化したものです(詳細は引用文献1)。その近畿地方では、共通語の「だから」にあたる表現を、以前は(セ)ヤサカイ(ニ)と言っていたのを、最近では(セ)ヤカラと言うようになりました。共通語の影響を受けてカラを使う形に変化したんですね。
世代差や場面差もあります。たとえば、1990年代にはすでに使われ始めていた「ッス」という敬語があります。コレッス(これです)、アザッス(ありがとうございます)などです。主に若い人から身近な人や親しい人に対して、あるいは相手の心理的負担を軽減するために、従来の敬語とタメ口(同等の物言い)の中間段階を埋める新たな敬語として、便利に使われ始めています。
時代差もあります。古典のことばだけでなく、明治から昭和初期のことばも、現代とはだいぶ異なっています。たとえば、全国の小学校・中学校・高等学校で昭和20~30年代にまとめられた作文集、いわゆる「文集」を分析してみると、当時の児童・生徒のことばが、現代とは異なっていたことがわかります。また、当時の教員による作文指導の様子や、その言語意識も見えてきます。
時代差を把握するために、過去の文献資料を調べることもあります。最近では昭和初期の「郷土教育資料」約300冊をもとに、岩手県の方言地図を作ったりしています。図1は「蜻蛉(とんぼ)」の地図で、北部に語形トンボの仲間のダンブリ類、その仲間のザンブリ類が沿岸中央部にありますね。中部から南の地域には古典語の秋津に由来するアキズ類が分布しています。この資料は、当時の教員が科目「郷土教育」のために各地域で調査した情報がまとめられているのですが、その中に方言を記録した部分があるんです。岩手県にはこのような資料がたくさん残っていて興味深いですね。

(引用文献1:「東北方言における原因・理由表現形式の分布」http://hougen.sakura.ne.jp/shuppan/2007/1-5.pdf

図1:郷土教育資料による岩手県の方言地図「蜻蛉(とんぼ)」

講義/ゼミについて

授業では、日本語を客観的にとらえて説明できることができるようになることを目指して、日本語を把握・分析する方法とその研究史、学校文法のしくみとその限界などを扱っています。
地域差については、実際の方言調査による録音・動画や方言地図などを取り上げています。
もう一つ、方言地図を紹介しましょう。図2は、1908-2012(明治41-平成24)年の間に作成・出版された青森県・岩手県・秋田県・宮城県の方言集・方言辞典・方言調査報告書類・昔話集から、方言感動詞を網羅的に集めて分類し、地図上に示したものです。このような方言地図を作って分布を確認することで、最初に広くジャ類が存在していて、そのジャにイが付いたジャイ類が生じ、それが変化したジェァ類を経てジェ類が生まれたことが推測できます。
この感動詞には、「ジャ、こっちへ来なさいよ」のような「呼びかけ」(あいさつ表現の一種)と、「ジャ、何があったんだ」のような「驚き」の用法がありますが、資料によって意味の偏りが観察されます。方言昔話では圧倒的に「呼びかけ」が多く、方言辞典には「驚き」が多く記載されています。方言辞典には使い手が意識しやすい意味が優先的に記録されたのに対して、方言昔話では物語に応じて実際に使われている用法が記録されたものと考えられます。なお、「呼びかけ」のジャ類/ジェ類は、学校教育によって共通語のあいさつ表現が浸透した結果、現代では少しずつ使われなくなってきているようです(詳細は引用文献2)。

(引用文献2:詳細は「ジェジェジェ! ジャジャジャ!:驚くほどに繰り返す感動詞の世界」参照、https://www.taishukan.co.jp/kokugo/media/blog/?act=detail&id=131

図2:「呼びかけ」と「驚き」感動詞の分布

高校生へのメッセージ

私たちは、出来事を把握したり他の人に伝えたりするとき、ことばを使いますね。学生さんたちは、よく、正しい日本語かどうかに興味を持ちがちですが、時代によっても「正しさ」の意識は違うし、実際にはいわゆる正しい日本語ばかりが使われているわけではない。私たちはさまざまな変異(バリエーション)を持っていて、その時々の出来事や感情などをうまく表現しているのです。
このような実際の日本語を知ることは、日本語ネイティブにとって自分自身の一部を理解することでもあると思いますし、他の言語を学ぶときに役に立つ場合もあります。また、学校教育における科目「国語」は、「日本語で正確に理解し適切に表現する資質・能力」を身につけていくことを目指していますね。その意味では、日本語の研究は、学校教育を支える基礎になっていると思います。日本語の変異を楽しみつつ、それらを客観的に説明する方法を勉強しながら、これからの日本語についても一緒に考えていきましょう。